2016.12.05
なぜ「レトルト食品には保存料が入っている」と勘違いしてしまうのか?
「レトルト食品って、保存料が入ってるんじゃないの」――。こんな風に思われる方が、多くいるかもしれません。ただ実際には、レトルト食品に保存料は使わないと明確に決まっており、「レトルトカレーに保存料」は誤解なのです。「保存料を使わないレトルト食品が、どうして長期保存できるのか?」。この問いに、大塚食品 レトルト技術室 室長の渡辺正徳が答えました。
ナポレオン時代の瓶詰から始まった保存技術
―最近は「食べ物が傷まない」と聞くと、すべて「保存料を使っているからだろう」と誤解する人が多いようです。まず、保存料について教えてください。
渡辺:食品はそのまま置いておくとやがて腐るものですが、「腐る」ということをミクロの目で見れば微生物が繁殖している状態です。これを防ぐには、食べ物についている微生物をゼロにするか、数を減らして増殖を防ぐかのどちらかになります。
保存料というのは、微生物の増殖を抑制するための食品添加物です。ただし、保存料は微生物を殺すための物質ではないので、使用する場合も予め何らかの方法で食品に付いている微生物を減らしておく必要があります。
微生物を殺すための食品添加物は殺菌料といい、生鮮品に使われることが多いものです。一般に、殺菌料には毒性の強いものが多く、食品の完成前に除去または分解されなければならないというルールも存在しています。
―やはり、保存料や殺菌料を使わなければ、食品を長持ちさせられないのでしょうか。
渡辺:食品中に水分が多いと微生物は繁殖しやすく、逆に水分を減らせば日持ちしやすくなります。そのため、古くから干物にするという手法が取られたわけです。水分があっても、塩分などが多ければ、微生物は水を利用しづらくなります。それで塩漬けや砂糖漬けなどが行われました。また、発酵によって他の無害な微生物によって腐敗を押さえたり、食品を酸性にすることで微生物の繁殖は抑えられます。
とは言え、これらはいずれも食品そのものの味や性質を変えてしまう方法ですよね。それに対して、ナポレオン時代のフランスで瓶詰が発明されました。食品を瓶に詰めて蓋をして密封。その上で、湯煎によって瓶全体の温度を上げて殺菌するという方法です。
これだと、通常食べているものをそのまま瓶に詰めて長期間保存できるようになります。やがて、その容器を瓶から缶に変えて缶詰が作られるようになりました。さらに、容器に軟らかなパウチ袋を使ったものがレトルト食品。ですから、瓶詰、缶詰、レトルト食品は同じ方法によって、保存料を使わずに食品の長期保存を可能にするものだと言えます。
レトルトは“高圧と加熱”で微生物を殺菌
―なるほど。レトルト食品は瓶詰や缶詰の仲間だったのですね。
渡辺:違うところは、加熱時に容器が膨張して破裂するのを防ぐために高圧をかける点ですが、容器ごと加熱して微生物を完全に殺菌するという考え方は同じです。
この方法ならば、食べ物についている微生物を全くなくしてしまい、後で微生物が付くことも防げますので、微生物が増殖するのを防ぐために保存料を使うこと自体がナンセンスになります。ですから、瓶詰、缶詰、レトルト食品には、保存料を使わないというルールも定められています。
そもそも、現在他の食品で使われている保存料のほとんどは、瓶詰に始まるこの技術が出来た後に開発されたものが多いはずです。
―そんなによい方法なら、他の食品もレトルト食品にするといいのではないでしょうか。
渡辺:まず、自明のことですが、加熱工程がありますので、生ものであるべき食品はレトルト食品にできません。例えば魚介類は、加熱すると水分が抜けてしまうためレトルト食品には向いていません。このように、レトルト食品に適さない食材もあります。
そこで、むしろ水分を多めにしておきたいソフトタイプの珍味だとか、ハム・ソーセージ、魚肉練製品などは、レトルト食品のような加工をするよりも保存料を上手に使った方がおいしく仕上げられるでしょう。
その場合も、保存料をはじめとする食品添加物は、使ってよい保存料の種類、用途、量などを国が定めて管理していますから、健康に差し迫ったリスクがあると考える必要はありません。
ただし、急性毒(食べるなどした後、すぐに害が現れる)については調査済みでも、慢性毒(少量ずつでも食べ続けることで、後で害が現れる)のリスクは、調べきれていないと不安を感じている生活者も多いのではないでしょうか。そのために、「なるべく保存料の使用は控えたい」と考えるメーカーや流通業も増えていると言えます。
―他にも、レトルト食品に適さない食材や、レトルト食品ならではの調理の苦労などはありますか。
渡辺:一般に食品の加熱を続けると、風味が損なわれたり、色が焦げ茶色に変わったりします。しかし、カレー自体は煮込み料理なので、そうした変化はもともと想定されているわけです。
カレーは茶色っぽいので色味が問題になることは起こりにくいですし、スパイスをたっぷり使う食品ですから、スパイスの粒の大きさや加えるタイミングを変えることで風味が残るようにしています。
加えて、具は軟らかめになりますので、ジャガイモ、ニンジンなどは、レトルト殺菌のプロセスで調理が進むことを考慮して、封入する段階では完全に加熱されていない軟らかくなる前の状態にするなどの工夫もします。
魚介類は水が抜けるので合わないと言いましたが、肉もやはり水分が抜けぎみになりますので、若干脂があるもののほうが出来上がったときにパサパサせず適しています。鶏肉では、胸肉よりはもも肉の方が向いているわけです。
このようにボンカレーの製造では、材料選びや調理工程にさまざまな工夫を重ねています。
「常温で保存できる」は環境負荷軽減にもつながる
―現代は、食品を冷凍・冷蔵して保存する技術もあります。これらとレトルト食品の違いはどのようでしょうか。
渡辺:冷凍・冷蔵ともに、食材のフレッシュな風味を表現できるという点は、レトルト食品よりも優れているかもしれません。ただし、冷凍の場合は、具の組織が壊れて食感が悪くなりがちです。
冷蔵の場合、煮込んだときの独特のうまさの表現として不足を感じる部分があるのではないでしょうか。小麦粉でとろみをつけて煮込む日本風のカレーは、レトルト食品に合っていると思います。しかし、エスニック風、本場インド風など、さらっとしてスパイシーな感じを表現するには、冷蔵がより適しているかもしれません。
冷蔵のカレーに、過去に取り組んだことがあります。レトルト食品のボンカレーとはまた違った味や価値が表現でき、自社の流通体制が整えられたら、またチャレンジするかもしれないですね。
その上で、やはりレトルト食品が優れていると言えるのは、1年間、2年間といった賞味期限の長さです。しかも、家庭でストックする段階はもちろん、流通過程でも温度管理のための電気を使わないので、低コストで温室効果ガス排出が少ない、環境によい商品だと言えます。
そして、冷凍であれば解凍に時間と手間を要しますが、ボンカレーの加熱はとても簡単です。
―今後は、どのようなボンカレーを作っていくのでしょうか。
渡辺:ボンカレーは間もなく50周年を迎え、市場に定着しており、ロングセラー商品として慎重に扱うべきでしょう。とは言え、生活者の嗜好は時代によって変わっていくので、そこは敏感に対応していきたいと考えています。
一方、現代の生活の中で利用していただくシーンに、より適した形や温め方などは追求していくべきだと考えています。いち早く電子レンジ対応としたことも、忙しい消費者生活者が短時間に手間なく加熱できて、しかも環境にもよいという点で、時代に対応できたと思います。
さらに、今年主要な野菜を国産としましたが、これは安全性に加えて、安心も感じていただくための取り組みでした。そのように、ボンカレーのよさをより高めながら、時代に合った商品にしていきたいと思います。
※記事の内容および社員の所属は取材当時のものです
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